基本情報
『初秋』は、アメリカのハードボイルド小説家、ロバート・B・パーカーによる作品で、舞台はアメリカ・マサチューセッツ州ボストン周辺です。ボストンを拠点に活躍する私立探偵スペンサーを主人公とするシリーズものの7作品目で、1981年の作品です。そして付け加えるのならば、そんなスペンサー・シリーズの異色作になります。……と、まあ、ご存じないでしょう。これこそ、まさにこのブログの真骨頂。できれば、この記事で本作を知って、読んで欲しい(ネタバレとかそういう系ではありません)。ただ、本当に面白いから、もっと知って欲しい。約半世紀前の作品だけど、今こそ、再度読まれる価値がある。ちなみに私は、5年前くらいに、村上龍のエッセイ『すべての男は消耗品である』で知った口。でなければ普通はなかなかリーチできない(Vol.2の方だったかもしれません)。そこで龍は、「いいから男は黙ってスペンサーを読んどけ。そしてそれは同じスペンサー・シリーズでも『初秋』のことを強く勧める」そんなことを書いていた(かなりうる覚
えww)。ただ、言いそうでしょう?ww マッチョな龍が、草食系男子に、ガツンと、ひとつの教養だ。もちろん、こういうのは映画であるでしょうが、、読んだ身としては、「分かる」と思った。合っている。この世代の、伊集院静でもいいが、本物たちが言っていることは、大抵正しい。
さて、脱線? でもないが、改めて本線に戻す。
ロバート・B・パーカーは現代ハードボイルドの巨匠と呼ばれ、彼の作品はレイモンド・チャンドラーの正統な後継者として評価されつつ、70年代以降の価値観を取り入れた軽妙な会話や、人間関係の深みが特徴。読了目安時間は4時間半。映画を観ているような感覚、長くない。夏の、一日の、たとえば午後をこの読書にあてるのがいい。それだけで強くなれる。次の日の朝から、君はもう変わっているはずだ。そういう小説。

知ってた?マッチョって英語なんだよ。

Macho man って曲、みんな聴いたことあるはず。
そもそも、「ハードボイルド」って何?
ハードボイルド(hard-boiled)とは、もともとはアメリカの探偵小説のジャンルのひとつで、1920〜30年代に確立されたスタイルです。ざっくり言うと「非情な世界を、冷静かつタフに生き抜く主人公の物語」です。
ハードボイルドの特徴
1 冷静でタフな主人公
感情をあまり表に出さず、どんな状況でも落ち着いて行動します。暴力や危険を恐れないが、むやみに使わない。
2 一人称視点が多い
主人公の語りで進むことが多く、独特のユーモアや皮肉を交えたモノローグが魅力。
3 腐敗した社会が舞台
犯罪、裏社会、権力の腐敗など、モラルが崩れた現実が描かれる。
4 正義よりも自分の信念
主人公は警察や法律に頼らず、あくまで自分の価値観と判断で行動します。
5 文体は簡潔で鋭い
長い説明より短く切れ味のある台詞や描写が好まれる。
代表的作家と作品
・ ダシール・ハメット『マルタの鷹』
・ レイモンド・チャンドラー『長いお別れ』
・ ミッキー・スピレイン『裁くのは俺だ』
日本人作家で言えば、大沢在昌の『新宿鮫』、誉田哲也の『ストロベリーナイト』シリーズがともに有名かつ、人気ですよね。また意外とSFは、ハードボイルドで書かれることがありまして、ハインラインの『夏への扉』など、こちらも聞いたことはあると思いますが、かなりハードボイルド感満載でしたね。面白いですよ!
語源
”hard-boiled” は本来「固ゆでの卵」の意味ですが、転じて「冷たく、感情に流されない」というニュアンスで使われます。1920年代のアメリカ俗語として、ギャングや私立探偵のタフさを表現する言葉になりました。
簡単なあらすじ
離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい――スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年ポールは、対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ固く心を閉ざし何事にも関心を示そうとしなかった。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。ボクシング、大工仕事……スペンサー流のトレーニングが始まる。ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に描く傑作!
ロバート・B・パーカー『初秋』ハヤカワ文庫 裏表紙より
登場人物紹介
・ スぺンサー
ボストンの私立探偵。元ボクサーで元州警察官。肉体的にも精神的にもタフだが、ユーモアと知性を併せ持つ。依頼以上のことをしてしまうお節介な性格。本作では少年ポールの育成に全力を注ぐ。
・ ポール・ジャスティス
15歳の少年。両親が離婚して以来、愛情に飢え、自己肯定感が低い。社交的ではなく、最初は無気力だが、スぺンサーとの生活を通じて徐々に自分の足で立つ力を身につけていく。
・ パティ・ジャスティス
ポールの母。自己中心的で、息子を駆け引きの道具のように扱う。スぺンサーに護衛を依頼するが、本当の意味で息子の幸せを考えていない。
・ メル・ジャスティス
ポールの父。パティと同様に息子への関心は薄く、自分の都合を優先。パティとの争いにポールを巻き込む。
・ スーザン・シルヴァーマン
スぺンサーの恋人で心理学者。落ち着きと洞察力を持ち、スぺンサーの行動を支える精神的支柱。ポールの変化も温かく見守る。
・ ホーク
スペンサーの友人で、危険な裏社会に通ずる。存在感が半端ない。私の勝手なイメージですが、『シティーハンター』の海坊主ww
面白いと思うところ
ハードボイルドなのに“銃より教育”
本作では大掛かりな事件よりも、人を育てることがメインテーマとなっています。スぺンサーが父親役となり、少年に「どう生きるか」を伝える姿は、シリーズでも異色で心温まります。
軽妙な会話とウィット
スペンサー特有の短く鋭い台詞回しは健在。シリアスな場面でも皮肉やユーモアが入り、重さと軽さのバランスが絶妙。個人的に、ハードボイルドの一番好きなところです。シンプルに、ユーモアともいいますが、オシャレだと思っています。心地いい。
男らしさの再定義
1980年代当時の「男らしさ」の概念を問い直し、力だけでなく、責任感や思考力を備えた人物像を提示しています。そしてこれはね、カッコイイ。マッチョだねえと思う。たとえば今の時代と合っていないのかもしれない。でも、そんなの関係ないね。スペンサーを、同性として、人間として、尊敬しちゃう。痺れる。
こういう人にオススメ
・ ハードボイルドは好きだが、撃ち合いや陰謀より人間ドラマを味わいたい人
・ 「師弟もの」や「父と子の物語」に惹かれる人
・ 本当にカッコいい男・大人に触れたいのならば、
・ スぺンサー・シリーズを初めて読む人(シリーズ知識がなくても楽しめます)
読んだ人向け
タイトル『初秋(Early Autumn)』の意味
「初秋」は、夏が去り、冬が来る前のわずかな季節。もう暑さは戻らず、涼しさが日々増していく——不可逆な移ろいです。ポールの人生もまさにその時期にあり、子供時代から大人へ向かう「変わりつつある今」を生きています。
英語圏文学では「Early Autumn」という表現はしばしば成熟と喪失のはざまを指し、青春期の終わりと新たな段階の始まりを同時に含意します。パーカーはこの季節感を、ポールの成長とその切なさに重ね、ただの成長物語ではない陰影を与えています。
暴力の使い方
スペンサーは暴力を「常用」ではなく「最終手段」として扱います。これはチャンドラーやハメットらの古典的ハードボイルド探偵像(暴力で状況を打開する)とは一線を画すものです。そして彼がポールに教えるのは、暴力を避けるための知恵と、自分を守るための最低限の戦闘力。トレーニングを通じてポールは、腕力以上に「自信」と「自己管理能力」を身につけます。身体を鍛えることは、肉体だけでなく精神にも筋肉をつける——その発想が、物語全体を通して一貫して描かれます。
親ではなく「他人」が人生を変える可能性
この作品は、親が果たせなかった役割を「偶然出会った他人」が担うというモチーフを持っています。アメリカ文学で言うところの found family(見つけた家族)です。
スペンサーの行動は依頼の範囲を明らかに逸脱していますが、それは彼の倫理観に根ざしたもので、法や制度が救えない人間を救う行為として描かれます。この介入は、探偵小説の枠を超えて「擬似的な教育小説(ビルドゥングスロマン)」の側面を作品に与えています。
ポールはこの出会いを通して、自分の足で立つ術を学びました。親でもなく、教師でもなく、依頼を受けた探偵——その不思議な立ち位置こそが、変化を可能にしたのです。
総評
『初秋』は、銃撃戦や派手なアクションよりも、会話と日常の積み重ねを主役に据えたハードボイルド小説です。外見は探偵物ですが、内実は「成長譚」であり「人生の指南書」です。
ロバート・B・パーカーが提示する「本当の大人になるとは何か」という問いは、刊行から半世紀近く経った今でも、静かな新鮮さをもって響きます。
(余談)本作が異色作であることの理由と、他作品の紹介について
異色作について
①事件より「教育」が主軸
普通のハードボイルド探偵小説では、殺人事件や組織犯罪などが物語の中心に据えられます。しかし『初秋』では、依頼人の息子・ポールを守ることから始まりますが、物語の大半は少年を一人前に育てるプロセスに費やされています。銃撃戦や謎解きは少なく、「キャンプで薪を割る」「料理を教える」「体力作りをする」など、地味だが深いエピソードが続きます。
②ハードボイルドの「暴力」の使い方が逆
古典的ハードボイルドでは、暴力は物語を解決へ導く手段としてしばしば正面から使われます。ところがスぺンサーはポールに「暴力に頼らず自分の頭で考えて生きる」ことを教えます。つまり、力よりも自己決定力を重視しているのです。
③親子でも恋人でもない「育成関係」が中心
「育成関係」が中心探偵が保護対象と親密になる話はありますが、親代わりとして一人の人間を育てるという構造はシリーズ内でも珍しい。スぺンサーとポールの関係は、血縁や恋愛とは違う「師弟関係」であり、この絆の描写が非常に丁寧です。
こうした点が、他のスぺンサー作品や典型的なハードボイルドと比べて「異色」とされる理由です。
他のスペンサー作品について
スぺンサー・シリーズは全部で40作以上ありますが、基本的には探偵スぺンサーがボストンを中心に依頼を受け、事件を解決していくハードボイルド探偵小説です。ただし回を重ねるごとに、人間関係や社会問題の描写が濃くなります。
主なスぺンサー作品のタイプと例
1.古典的ハードボイルド型(初期)
『ゴッドウルフの行方』(1973)
シリーズ第1作。大学から盗まれた中世写本を探す依頼を受けたスぺンサーが、殺人事件に巻き込まれる。
特徴:事件解決が中心。スぺンサーの皮肉交じりの語りやタフさが前面に出る。
2.サスペンス・アクション型
『約束の地』(1976)
家出した妻を探す依頼から、武装強盗グループとの対決へ発展。
※本作で初めてホークが登場。
特徴:銃撃戦や肉体的アクションが多めでスリル重視。
3.社会派テーマ型
『アパルーサの秋』(1980)
フェミニスト作家の護衛を依頼されたスぺンサーが、思想的対立や偏見の壁と向き合う。
特徴:事件の背後に社会問題(人種、性差、政治的対立)がある。
4.異色・人間ドラマ型
『初秋』(1981)
少年を育てる成長物語。事件は小規模で、心理描写や人間関係が中心。
『スモール・ヴァイシズ』(1997)
誤って有罪になった囚人の冤罪を晴らすため、過去を徹底的に掘り下げる。
5.シリーズ後期の熟成型
『チャンス』(1996)
マフィアの抗争と失踪事件が絡む。スぺンサー・スーザン・ホークの関係性が安定し、物語はチーム戦に。
特徴:主人公の年齢や経験の積み重ねがにじみ、暴力より知恵や人脈が武器になる。
シリーズ全般をとおしての魅力として、
軽妙な会話:スぺンサーとスーザン、ホークの掛け合いは、いつも楽しみ。だし、楽しいです。
料理シーン:料理好きのスぺンサーが作るメニュー描写が妙にうまそう。
時代性:70〜2000年代のアメリカ社会の空気を反映しています。
ということで、『初秋』はこの流れの中で見ると、銃や謎解きよりも「育てる」ことがメインなので、やはりシリーズ内でも異色です。……って、だからなんだい? 最高よ。
だいたいさ、傑作なんてそうそう書けない。何十本と書いて一本とか、くらいが相場じゃないのかい? だからね、異色? そう呼ぶのもいいが、私なら「傑作」と言うね。ほんとうに、とてもいい作品なんだ、大好き。
皆さんはどう思いましたか?

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