はじめに
先に断っておくことがあります。これから私が「はじめに」で書くことは、私にとってはとても大事な話なのです。しかし、あなたにとってはきっとそうではないことでしょう(顔も知らない、書き手HARUの、どうでもいい、ある「事件」でしかないからです)。だけど、お願いしたい、あなたに、これを、「序章(のようなもの)」として理解し、しばし私の、まったくの個人的な話にお付き合い頂くことを。
毎日の通勤、別に、今の会社にそこまでの不満はない。ただ、本当は仕事になんか行きたくないものが常だ。どうせ行けば働くが、スイッチを入れるのに少し時間がかかる。朝は、あまり元気ではない。とにも、慣らしが必要だった。家から駅まで歩き、電車に揺られ、その間は本を読む。短い時間だが、それでいい。駅に着いてから会社まで歩く。そういう時間があって、やっと働ける。そんなルーティーンに変わりはないが、最近はそこに彩りが加わった。電車の中、これをただの通勤の時間、として整理するか、些細だけど読書の時間、とも解釈してもいいが、私はその時間を、恋、彼女の横顔を見る時間とした。もちろん、じろじろとするものではないが、一瞬。それだけでいいんだ。気がつけば今はもう、その場所が、その時間が、一日で一番の楽しみになった。これもひとえに、彼女のおかげだ。
横に並べばよく分かる。背が高く、肩甲骨まで伸びた、長く、美しい黒髪を一つ縛り。なにより、横顔が、ずっと見つめていたくなるほど、綺麗だ。気がつけば、いつも近くにいた。隣、至近距離で、私の左と、彼女の右は、30センチと離れていない。2人は電車に揺られ、運ばれる。
毎日、同じ時間の、同じ車両で、彼女はいつも、本を読んでいた。イヤホンもつけていない。私は、音楽は流していないが、駅までの道中では聴いているもので、外すのも面倒だし、丁度いいや、と耳栓代わりにイヤホンはつけている。そうだ! 彼女、耳も、綺麗だった。そうじろじろと見るものじゃないが、たとえ一瞬だろうと、ありありと記憶する。そして次は、いかんいかん、と私も、本に潜る。それだけなのに、幸せだった。
ある時、ふと見渡したことがある。ぎゅうぎゅうで、ということはないが、彼女も、私も、座ることはなく、立ちで、たまに電車が揺れれば、距離は縮まり、慌てて吊皮を掴むことがある。見渡せば、座っている人、立っている人、みんな、スマホに夢中だ。イヤホンをつけて、音楽を、またそれが横に向いている人は、動画か、ゲームでもしているのだろう。そんな中で、私と、彼女だけが、本を読んでいる。私たちのところだけ、何かが違った。彼女が読んでいる本は、花柄のブックカバーのせいで、分からない。本好きなところはもちろんだけど、横から見えるそのシルエット全部が、とてもいい。
彼女のことが気になるようになった。意識するようになった、今日は、いるだろうか、いつもの時間の、先頭車両から2つ目のドアのところに、彼女はいるだろうか、と。
私たちは、同じ駅で降りる。最寄りの駅に着く少し前に彼女は栞を挟んで、仕舞う。私は、まだ仕舞わない。歩きスマホもとい、歩き読書。ぎりぎりまで本の中にいたい。まだ戻りたくなかった。エスカレーターを降りて、改札を抜ける。その先を、私は左に、彼女は右に曲がる。
名前も知らない。彼女が読んでいる本のタイトルさえ、私は知らない。私はこの時、レイモンド・チャンドラー・村上春樹訳の『ロング・グッドバイ』を読んでいた。分厚い本だった。単行本だったので、ブックカバーなどできやしない。私は、彼女の、そのカバーを剥がしたかった。しかしそれは、服を脱がすことと、同義だ。と本気で思ったりした。
私は密かに彼女のことを「文学少女」と呼んで、同僚にも話していた。「とても素敵な人がいるんだ」と。
ある日、私たちの行き先が同じであることに気がついた。会社の前で、私の前を、彼女が歩いていた。そう、同じ会社だったんだ。考えてもみると、ない話ではなかった。ただ私は改札を抜けて左から、彼女は右から行くっていうだけで、目的地は同じだった。
月並みな言葉だけど、どきどきした。目の前に、文学少女がいる。どうしてもっと早く気がつくことができなかったのだろう。情けない、視野が狭い。と、諦めがあった。彼女は右に、私は左に、それで、終わっていた。そこで、お別れだった。早計。気がつかなかったのは、私が二宮金次郎スタイルで、本を読みながら歩いていることが悪い。地面を背景に、本を、下を向いて歩いているからで、バカ野郎、俺。日陰者。
ある日の、その日は、急ぎ足で会社に向かった。少しでも早く会社に着きたかった。朝一番ですることがあった。だから歩きながら本は読まなかった、前を向いて、歩いていた。私と違うルートから合流したのだろう、さっきまでは前に居なかった、彼女が、文学少女が、前にいた。そこに異常などきどきもあったが、儚い夢に違いないが、その瞬間、色々と想像してしまった。これは、物書きの性なのかもしれない。
…………
年末だった、飲みに行って、隣の同僚のところに一本の電話が入った。内容は合流しないか、というもので、私たちはそこに馳せ参じたわけであります。
そしてそこに、例の彼女がいた。緊張して上手く喋れなかったけど、彼女が好きな作家を聞くことができた。それが、「村山早紀」。知らない作家だった。児童文学の作家さんとのこと。私が普段、手を伸ばさないところ、こういう出会いがあるもので、人生は分からない。奇跡だ。そうだ、服を脱がした。今は、『平場の月』を読んでいるとのことだった。それも、要チェックだ。がしかし、まずは「村山早紀」。
というわけで、私は「村山早紀」にリーチした。この本との出会いが、その背景が、なかなかにチャーミングだった。という話から、はじめさせて頂く。ここからが本題。
基本情報
本を愛する人のための、やさしいファンタジー
刊行は2017年。著者は村山早紀。彼女は、もともと児童文学・YA(ヤングアダルト)作品を中心に活躍してきた作家です。今回ご紹介する『桜風堂ものがたり』もその系譜にあり、文章は平易で、物語は過度に尖らず、読者を選ばない構えになっています。大人向け小説ではありますが、読み心地は児童文学寄り、と言ったほうが近いかもしれません。
本作のシンデレラストーリー
『桜風堂ものがたり』は、刊行後じわじわと読者を広げ、本好きの口コミによって評価を高めた作品です。その流れの中で、本屋大賞のノミネート作品にも選ばれました。
本屋大賞は、「全国の書店員が“いちばん売りたい本”を選ぶ」賞です。つまりこの評価は、文学的な実験性よりも、読者に手渡したときの確かな読みやすさや好感度が重視された結果だと言えるでしょう。『桜風堂ものがたり』の性格を考えると、この賞との相性はとても良いと感じます(なんたって書店員の話ですからね!)。
読了目安時間(私は文庫で読みました)については、上巻4時間、下巻3時間半です。


カバーイラストに猫も鳥もいるじゃん! いいね!

私は確かに鳥類だけど・・・あれ、オウムじゃね・・・?
簡単なあらすじ
書店に勤める青年、月原一整は、人づきあいは苦手だが、埋もれていた名作を見つけ出して光を当てることが多く、店長から「宝探しの月原」と呼ばれ、信頼されていた。しかしある日、店内で万引きをした少年を一整が追いかけたことが、思わぬ不幸な事態を招いてしまう。そのことで傷心を抱えて旅に出た一整は、ネットで親しくしていた、桜風堂という書店を営む老人を訪ねるため、桜野町を訪れるのだが……。
村山早紀『桜風堂ものがたり(上)』PHP文芸文庫 裏表紙より
面白いところ
この作品の最大の魅力は、本好きの心をくすぐる描写です。
書店という場所への愛情
本が人の人生にそっと寄り添う感覚
読書体験そのものへの肯定
これらが、非常にわかりやすいかたちで提示されます。本好きにとっては「分かる」「そうそう」と頷きやすい場面が多く、読書という行為が優しく肯定される物語です。
また、全体に漂う温度感は終始あたたかく、読後感も穏やかです。実写化しても成立しそう、という感想にも頷けます。画として想像しやすい作品です。
本を売るって、結構スゴイことなんだって思いました。ただ、面白いモノを書けばいいって話じゃない。誰かが(出版社、書店員さん等)、愛をもって売ってくれないと成立しないんだって、学びました。この点はとても勉強にもなるし、面白くありました。
こういう人にオススメ
この作品を特にオススメできるのは、次のような人です。
本屋や図書館という場所が好きな人
読書に「癒し」を求めている人
強い起伏よりも、穏やかな物語を好む人
ファンタジーに抵抗がない人
逆に、構成の緻密さやテーマの鋭さを重視する人には、合わないかもしれません(正直なところ私はちょっとこっち寄り、その理由は読んだ人向けのところで書きます。だけどね、ここで紹介しているように、いい本だった。それは間違いない)。
そして本作は恋文だった。あらすじから引用。もしね、書店員さんでまだ読んでいないって人がいるのならば、本書は必読ですよ。ね、
この物語はもちろん、本と本屋さんが好きなお客様たち、つまり、いまこの本を買ったり借りたりして、手にしてくださっているあなた、読者のみなさまのために書きました。――でも、本屋さんたちに捧げるために書いた物語でもありました。
子どもの頃から大好きだった本屋さん。作家になってからは、自分の本を棚に挿し平台に並べ、大切に売ってくださるひとびとがいるところ。その場所とそこにいるひとびとへの愛と感謝の思いを綴った、この物語はいわば、わたしにとっての、本屋さんへの密かな恋文だったのです。村山早紀『桜風堂ものがたり(下)』PHP文芸文庫 P234、あらすじより
読んだ人向け
正直な読後感……
軽さと風呂敷
好みが分かれそうな小説ですよね。物語は多くの要素や設定を提示しますが、すべてが十分に回収されるわけではありません。人によっては「風呂敷を広げすぎでは?」あるいは「少し無責任では?」と感じるかもしれません。物語の芯が「癒し」にあるため、葛藤や緊張が深まる前に、ふっと和らいでしまう場面も多いです。重たいテーマや厳密な構成を期待すると、物足りなさが残ります。
物語としての完成度よりも、読者の感情を傷つけないことを優先した作品
ファンタジー要素も、世界観を広げるためというより、「現実だけでは救われない気持ちを、そっと包むため」に使われています。だからこそ、ファンタジーが苦手な人には合わない可能性があります。現実を切り取る鋭さや、説明されない余白を楽しむタイプの読者には、少し優しすぎるのです。ただ、その「優しすぎる」点こそが、この作品の支持層を作っているとも言えるのだと思います。
裏主人公「四月の魚」について
作中に登場する「四月の魚」は、明らかに印象的な存在です。むしろこちらの物語をもっと読んでみたい、と思わせる力がありました。物語の本編よりも、「語られなかった物語」に惹かれる読者が出るのは、この作品が持つ世界の広がりの証拠でもあるでしょう。
余談までに、この手法ね、ちょっとズルくないですか。最近で言えばマンガ大賞2017を受賞した『響』も近いこともやりました。その中で、主人公が書いた傑作小説『お伽の庭』を巡ることに近いです。私たちは想像します、いったいどんな傑作なんだと、読み手は期待する。近いね、そして、思い出した。また読みたいな。マンガなんで、もっと手軽に読めるし、実際私はかなり好き。面白い。とりあえずここからオススメさせてもらう。ぜひ!
余白としての桜風堂
『桜風堂ものがたり』は、完成された物語ではありません。読者が勝手に続きを考えてしまう余白を含めて、ようやく一つの作品になる小説です。それを「未回収」「無責任」と取るか、「やさしい」と取るか。その分岐点に、月原がいて、苑絵がいて、渚沙がいて、そして蓬野純也が立っているのでしょう。
なぜ「未回収」に感じるのか
こうして見ると、『桜風堂ものがたり』が未回収に感じられる理由は明確です。この物語は、答えを書く気がない。その代わり、「安心できる輪郭」だけを用意している。だから読者によっては、「投げっぱなし」「無責任」に見える。けれど、それは意図的な選択なのでしょう。
それでも、あたたかい理由
この作品は、人生を描こうとしていません。人生の「やさしい部分だけ」を切り取っています。それを物足りないと感じるのも正しいし、救われると感じるのも正しい。『桜風堂ものがたり』は、深く考えすぎない自由を、読者に渡してくる小説です。だから、読み終えたあとに「まあまあだった」と思う人もいれば、「大好きだ」と言う人もいる。その差こそが、この作品の正体なのだと思います。
まとめとして、
『桜風堂ものがたり』は、野心的な小説ではありません。軽く、やさしく、あたたかい。その分、深く刺さらない人もいるでしょう。風呂敷を広げ、すべてを回収する物語でもありません。
けれど、本を愛する人に向けて書かれた、誠実な物語であることは確かです。「好き嫌い」で語っていい作品だと思いますし、「自分には合わなかった」と感じるのも、まったく自然です。だからこそ、好きだと言う人の気持ちも、ちゃんと分かる。そんな一冊です。
あなたはどう思いましたか? 好きですか、それとも少し苦手でしたか? そして、冒頭で書いた彼女との、その後については……ご想像にお任せしますね。余白ですねww
次作の『百貨の魔法』もオススメです。装飾がとてもいいです。家に置いておきたい本シリーズです。舞台は星野百貨店、魔法のような物語です。こちらも是非!
それではまた、次の記事で!
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