『君のクイズ』あらすじ付き作品紹介及び考察について

小説

基本情報

 なんと美しい装丁でしょう。いい顔をしている。これだけで手を伸ばす人がいるでしょう、これだけで売れる。だからイケメンは嫌いなんだ。……という冗談はさて置き、刊行は2022年。著者は小川哲。いきなりで失礼、ですが主観で「小川哲」は、今一番来ている作家だと思う。10年前であれば「中村文則」だって私は言う(もちろん好みの話ですよ)。とりあえず全部面白い。『ユートロニカのこちら側』でSF作家としてデビュー。『ゲームの王国』『地図と拳』と長編代表作はもちろん面白い、ちなみに『地図と拳』で直木賞受賞。が、私がドハマりしたのは短編集の『嘘と正典』でした。ここに収録された1つめの『魔術師』と書下ろしの『嘘と正典』がね、めちゃくちゃいい。あと、『スメラミシング』収録の『神についての方程式』ね! 私は単行本になる前に文藝で読んだので、かなり前の話になりますが、ビビりました。「この人すげえや」そう思ったのを、覚えている。彼の最新作『火星の女王』やエッセイなどはまだ読めていませんが、とにかく全部いい。強く推す。小川哲は、(色分けすれば)SF作家なのですが、と、たぶんそう知られていますが、その本質はジャンル横断的な「問いの作家」だと感じます。壮大な設定を描く一方で、きわめて限定された状況に思考を集中させ、人間の認知や理解のあり方を浮かび上がらせるのです。そしてその資質がもっとも端的に表れているのが、今回ご紹介する『君のクイズ』だと思います。

 物語の中心にあるのはテレビのクイズ番組です。しかし本作が描くのは、クイズで勝つ快感ではありません。問題文が読まれる前に、正解のボタンが押される――その不可解な出来事をきっかけに、「クイズとは何か」「人はなぜ答えられるのか」という問いが、静かに、しかし執拗に掘り下げられていきます。

 読了目安時間は3時間。ジャンルはミステリー。これ、ほんとに一気読みできますよ! 

HARU
HARU

カバーイラストは山田克也先生だね!

PENくん
PENくん

べらぼうにかっけーな!!

簡単なあらすじ

面白いところ

 まずはコレを見てください。また上手いと思った。これは売っている人がやり手だね。これも帯です。それを真似て作成しました。それでね、たしかに帯の推薦コメントなんて褒め言葉しかない。言われればこれもそうだ。そして例にも漏れずベタ褒めです。でも、すべてがオシャレだし、人選もいい、何より、読後なら分かる。これらのコメントは、あまりに「的確」だった。

 そもそも競技クイズとはなんだろう? テレビで見て驚いたことありますよね? あの早押しって、この人たちの頭の中どうなっているのだろう……
 という「問い」に対して明確な回答をするものではありませんが、文中の中で、丁寧に説明される場面がありました。それを引用します。

 MCに聞かれ、僕は「そうですね」とうなずく。「答えを思い出せませんでした」「思い出せなかった?」と聞かれる。
 僕は質問の意図がわからず、「はい」と答える。
 「本庄さんもボタンに手がかかっていましたが、答えはわかっていましたか?」
 「『はい』とも『いいえ』とも言えます」と本庄絆が言う。「早押しクイズにおいて、答えがわかってから押しているようだと相手に解答権を取られてしまいます。私たちは『わかりそう』と思ったら押します。ランプが点いて、答えを口にするまでの短い時間で、『わかりそう』だった解答を考えます。今の問題も、押そうとした時点では答えはわかっていません。その後、必死に思い出したわけです」
 僕は感心している。やはり本庄絆はすごい。僕が理解できなかった質問の意図を察して。MCと視聴者向けに解説をしている。
 クイズをやらない人にとって、「答えを思い出せなかった」というコメントは不可解だ。わかるかわからないか、その二択だと思っている。クイズプレイヤーは答えがわかってから押すのではなく、「わかりそう」と思った段階で押す。僕にとってそれはあまりに当たり前のことだったが、普段クイズをやっていない人からすればなかなか理解できない感覚だろう。

小川哲『君のクイズ』朝日新聞出版 p92

 これ面白くないですか! 競技・スポーツって感じがしますね。耳の良さ、反射神経、超大事。これだけ読むと、なんなら答えなんて全部知っている。あるある、きっと頭のどこかにあるんだ。蓄えた知識。いかに短い情報から、いかに短い時間の中で、かつリスクを犯してでも、相手より0.1秒でも早くボタンを押す、背水の陣。そして探しだす。この感じ。

 これ、「上の句」が読み上げられ、次の一瞬で札に手を伸ばす、「競技かるた」に似ていますよね。見ていると、綺麗に畳に並べられた札は、無残に、いったいどの札に手を伸ばしたんだ、って感じの、あれ。素人目にはよく分からない。で、クイズはそれに加えて、もっとややこい。なにぶん、問題が生きている。かるたみたいに、覚えるのは一度きり、ある「上の句」に続く「下の句」ではない。本著の中でも、そのことを喜ぶことが書いてあった。東日本大震災までと、後では答えが変わった問題もあるという(実際に震災の影響で日本一低い山が違う山になった)。し、そもそも絶対数が違い過ぎる(ただ、これはね、我々クイズを知らない側からの意見で、実際にはパターンなのかもしれない。それに、ある程度網羅する範囲は、かるたにおける「上の句」に過ぎないのかもしれない。が、そうは言ったところ。当然、下の句の分からない上の句があることは、致し方ない真実だと思う)。

 知らない世界のお話。だし、クイズの奥深さ、面白さ、が分かる。至高のミステリー。一気読みしてしまう魅力がある。新川帆立のコメントにある「世界のすべてがクイズに見える。」は、ほんとその通り。そしてね、とにかく面白い小説というわけですわ。

こういう人にオススメ

・ミステリーが好きで、事件より構造に惹かれる人

・クイズ番組を見てこの人たち「なんで答えられるのかなあ」と考えたことがある人

・SF的な思考実験を、身近な題材で味わいたい人

・「なんか一気読みできるような面白い小説ないかな~」と、お探しの方!

・映画『スラムドック$ミリオネア』が好きな人
 いい映画だよねえ、ずいぶん前に観て、子細なところまでは正直覚えていないが、人にオススメできる、いい映画だったとは印象に残っていますね。本作はずいぶん近い所にいる。ということで、そんなあなたは是非。

・漫画『幽遊白書』が好きな人、松坂世代もとい幽白世代のあなたww
 仙水編、天沼とクイズで勝負したところ、たしかあれはアトランダムに見え、実は法則があった。その公式を探し出すのに5問くらい必要だったというカラクリでした。で、あれも問題文が読まれる前にボタンを押す。これが元ネタ(モチーフとも言ってみる)か、とツッコミたくなった。なんたって小川哲も世代だ。私も少年の頃「ほお」とは思ったが、今はその説明に満足はしない。がしかし、「気のクイズ」でなら、あの時の感動? を今度は論理的? に書いているわけですよ。面白いよ、損はさせない。ということで、そんなあなた、是非!!

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読んだ人向け

読了後に残る〇〇〇について

 読了後、最も強く残るのは「結局、何が起きたのか分からない」という感覚ではないでしょうか(=違和感)。本庄はなぜゼロ秒でボタンを押せたのか。その問いに対して、本作は明確な答えを与えません。しかし、その“答えなさ”こそが、意図的に設計されたものであることがはっきりしてきます。

 重要なのは、本庄本人ですら、自分の行為を完全には説明できていないという点です。
彼は答えを知っていたわけではなく、超能力を自覚しているわけでもない。ただ、問いに反応してしまった。その結果が、たまたま正解と一致したにすぎません。この「たまたま」を、物語は最後まで回収しません。

 ここで三島の立場が効いてきます。語り手である三島は、読者と同じく、合理的な説明を欲する側の人間です。イカサマ、事前情報、編集の操作、心理的誘導――考えうる可能性を一つずつ検討し、排除していく。しかし、どれだけ考えても、本庄の行為は完全には理解できない。その理解不能性に、三島は折り合いをつけないまま物語を終えます。

 この終わり方は、読者に不安を残します。しかし同時に、とても誠実でもあります。もし本庄の行為が完全に説明されてしまえば、『君のクイズ』は「天才の種明かし」で終わってしまうでしょう。本作が選んだのは、説明できないものを、説明できないまま差し出すという態度です。

 ここで改めて、「クイズとは何か」という問いが浮かび上がります。クイズは、本来、正解が用意されたゲームです。しかし現実の思考や理解は、必ずしも問題文どおりに進みません。人はときに、理由を言語化できないまま、正しい行動を取ってしまう。本庄は、その極端な例として描かれています。

 三島が最後まで本庄を“魔法使い”のように感じてしまうのも無理はありません。魔法とは、理解できないが、確かに起きてしまった出来事の別名だからです。本作は、その魔法を解体しません。ただ、魔法を前にした人間が、どう考え、どう敗北を引き受けるのかを描きます。

 ここで気がつくのが、三島自身もまた、問いに取り憑かれているという点です。本庄ほど極端ではないにせよ、三島もまた「納得できない問い」を抱え続ける人間です。彼は答えを出せないまま、それでも考え続ける。その姿勢が、この小説の読後感を支えています。

 『君のクイズ』は、分かる人と分からない人を分ける物語ではありません。分からない側に立たされたとき、人はどう振る舞うのか。そのとき思考はどこまで進めるのか。その限界線を、静かに、しかし確実に示してくる作品です。
説明されないまま残された違和感は、読み手の中で問いとして生き続けます。その問いを抱え続けてしまうことこそが、『君のクイズ』を読んだ証なのかもしれません。

実写映画化について言及

 本作が映画化されると聞いて、期待と同時に小さな懸念も覚えます。それは、『君のクイズ』の核心にある「説明されなさ」が、映像化によって失われてしまわないか、という点です。

 映画という表現は、どうしても因果関係を明確に示す方向へと傾きがちです。カメラは何を見ていたのか、編集はどこを切り取ったのか、伏線はどこにあったのか。観客は無意識のうちに、「分かる」ための手がかりを探してしまいます。その結果、本庄のゼロ秒押しが、才能や記憶力、あるいは特殊な訓練の成果として“説明”されてしまう可能性があります。

 しかし、もしそうなってしまえば、『君のクイズ』は別の物語になってしまうでしょう。本庄は、最後まで理解不能な存在であるからこそ意味を持ちます。彼の行為は、合理的に説明できないが、確かに起きてしまった。その事実だけが残る。この宙吊りの状態こそが、原作の強度です。

 また、三島という語り手の存在も、映像化では扱いが難しい要素です。小説では、三島の思考の逡巡や、納得できない感情が丁寧に積み重ねられています。しかし映画では、それらをすべて台詞や映像で置き換える必要があります。その過程で、思考の余白が削ぎ落とされてしまう危険性は否定できません。

 理想を言えば、映画版『君のクイズ』には、分かりやすさよりも違和感を選んでほしい。謎を解決する快感よりも、解決できない問いを抱えたまま劇場を出る感覚を残してほしいと思います。

 『君のクイズ』が描いたのは、天才の物語ではなく、理解できない出来事を前にした人間の姿でした。その核心が、映画という別の表現の中で、どのように守られるのか。原作を読んだ者としては、その一点を静かに見守りたいところです。

 と、堅苦しいことを書いたって、映画化って聞けば、それはビックリもしたし、懸念もあるが、楽しみにしている。という点についてはそのとおりなんだ。

まとめ クイズは〇〇

 次に引用するのが、そのまま「まとめ」だし、この作品をよく説明している。だからこうやってここに記し、私のアーカイブとする。きっとこれを読むと、また読み返そうって気になる。だって、面白いこと書いてあるんだもん。ね、

 僕はクイズの内側からクイズのことを見ている。長年クイズをやってきたせいで、僕はクイズの中央近くに立っている。だからこそ、クイズとは、知識をもとにして、相手より早く、そして正確に、論理的な思考を使って正解にたどり着く競技だと思っていた。今でもそう思っている。
 でも、外側から見たら違うのだろう。クイズは魔法だ。未来を予知する予言者や、相手の思考を読み取って答えを当てるメンタリストみたいなものだ。そうでないと、何文字か読みあげられただけの問題に正解することなんてできない。クイズプレイヤーは無自覚なうちに「タネも仕掛けもございません」という顔をしてきた。本当にタネも仕掛けもないと信じる人がいた。
 本庄絆はそのギャップを利用している。自覚的に魔法を印象づけて、多くの人々を惹きつける。彼にとって、視聴者が抱く幻想は金儲けをするための大きな武器だった。彼の頭の中には世界そのものが存在していて、検索をかけるだけで簡単に答えが出る。この世にわからないことなどない。すべてが自明で、すべてが彼の手の中にある。彼はクイズと出会ってしまった。彼は卓越した記憶力を武器に魔法使いになった。

小川哲『君のクイズ』朝日新聞出版 p186

 小川哲の他の小説をまだ読んでいないのなら、全部オススメする。そしてその中でも短編集は読みやすい。まずはそこからでもいいし、大丈夫、いきなり長編からだって言うなら直木賞がある。リンクを貼る。ここから買って頂けると私は嬉しい。よろしく!
 と、最新作の『火星の女王』も貼っておく。ついでにエッセイも、なんたってまずは私が買うのだから。と、そんなことを言って、おわる。それではまた次の記事で!

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