基本情報
基本情報
2021年の日本映画です。ジャンルはロマンス7割、コメディ3割。
監督は前田浩二。主演は成田凌と清原果耶。上映時間は98分です。成田凌はこの映画で第31回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞しました。
成田凌と言えば、その甘いマスク、幅広い演技力からドラマや映画でよく起用されているイメージがありますが、俳優だけではなく、声優としても映画に出演しており、『竜とそばかすの姫』や『君の名は。』などにも出演しています。
成田凌に、こういう役をやらせたら右に出る者はいません。おどおどとして、頼りない感じ。そしてちょっと変人。
また、清原果耶は、いまや超売れっ子。『おかえりモネ』で広く知れ渡りましたが、そのちょっと前に撮影していた本作も、演技力が、ずば抜けています。これからも楽しみなのびしろ抜群な若手女優です。
簡単なあらすじ
人との関わりが苦手な予備校講師の大野(成田凌)と、大野の生徒で恋愛経験ゼロの女子高生、秋本(清原果耶)。大野は数学一筋の人生を歩んできており、人との関わりが苦手だった。将来、誰かと結婚したいと漠然と考えていたが、あまりの恋愛センス、常識のなさに一生結婚できないと秋本に宣告されてしまう。
一方、秋本は青年実業家の宮本(小泉孝太郎)に憧れを抱いていたが、宮本にフィアンセの戸川(泉里香)がいることを知り、ショックを受けていた。そこに「普通」の恋愛というものを教えてほしいという大野からの依頼。自分自身が恋愛経験ゼロにもかかわらず、自分の中の「普通」を信じ、「普通」の恋愛というものを教える名目で、宮本のフィアンセ戸川を大野に口説かせ、2人の仲を引き裂こうと目論んだ。
公式トレーラーです。
面白いと思うところ
話の内容としては、世の中の「普通」を分かっていない予備校講師と、恋愛経験のない女子高生がタッグを組み、ある青年実業家のフィアンセを口説こうとする話です。主要な登場人物が4人と少なく、キャラ立ちもはっきりしているため、冒頭から非常に作品に入りやすいと感じました。
作品中、随所に出てくる「普通」というフレーズ。この「普通」は女子高生秋本が、口癖のように発言するものですが、彼女の頭の中の「普通」は世の中の「普通」なのでしょうか。彼女は、自身が信じる「普通」の恋愛を自ら実践せず、予備校講師で試していきますが、当然彼女の「普通」と予備校講師の「普通」はズレているため、思い通りにいきません。
予備校講師の世の中の常識知らずの一面はクスクスと笑えるものがあり、それにツッコミを入れる女子高生との掛け合いがコメディ要素として本作の色を大きく出しています。さすがに漫画『ザ・ファブル』のように秋刀魚を頭から食べる。とかのレベルではありませんが、世の中とのずれの面白さは『ザ・ファブル』に似たものがあります。
あとは、ストーリーのテンポの良さ。98分の映画ですが、無駄と思えるようなシーンは一切なく、あれ? もう終わり? ってぐらいスーッと作品が入ってきます。これは俳優さんの演技がお上手ということもあるかもしれません。全くストレスなく見ることができます。
『ザ・ファブル』は殺しの天才が「普通」の生活に挑戦する漫画
岡田准一主演で実写化もしてるね!
こういう人にお勧め
恋愛映画を気軽に楽しみたい方にお勧め。恋愛映画と聞くと私はどうしても、誰かが重い病気になったり、陰湿ないじめがあったり、まどろっこしく、ドロドロした、胸が締め付けられるようなそんな印象がありました。ですが、本作品はそういった要素は一切なく、テンポよく話が進んでいきます。予告編を見ていただければわかるかと思いますが軽快な音楽が示すように、爽やかな映画です。
正直、私の中では恋愛映画は映画のジャンルの中で、あまり気をそそられない部類に入りますが、これはノンストレスで観ることができました。
また、変わっているね。とか言われたことありませんか? 世の中の「普通」とか「恋」の正体がよく分からない、または分らなくなってしまったあなた。「普通」でありたいと思っているあなた。観たら心が明るく、軽くなりますよ。
ガッツリ映画を観よう。そんな心構えせずにソファに寝そべりながら、リラックスしながら見ることが出来る、楽しめる作品です。
ここから読んだ人向けの話
女子高生集団
いやもうただただ話したいだけ。商店街の祭りの話。予備校の話。カップルの悪口。食べ物の話。
代表的な今どきの女子高生のグループってものを表現しているんですかね。身内に甘く、他者に厳しい。そんな他愛のない、生産性のない。そんな雰囲気を感じました。でも、めちゃくちゃ性格悪いわけでもなく、直接悪口を言うこともなく、そういうものなんですかね。すごく青春って感じがしました。でもね、金髪デブのブレザーに誰かツッコんであげてよ! 絶対暑いだろお前!ww
「予備校終わったら、油そば食べ行かない?」
後半のパワーワード。そして断られるというww
同じ方向を向くことの重要性
君島、柳カップルの性格の良さが際立ちました。初対面にもかかわらず、秋本がずけずけと質問しても、きちんと、丁寧に答えてくれます。とても悪口を言われるような性格の2人ではありませんでした。
好きになったポイントは「立ち位置が変わった」こと。バーの店員と客という立場から、カウンターから同じ方向を見たことで、恋愛感情が芽生えたと。今まで、予備校の講師と受講生という立場だったものが、同じ目的のために同じ方向を向いていることに秋本が気づき、自分が恋していることに納得するシーン、素敵でした。
余談ですが、私は過去の人権研修で、身障者の方の公演を聞くことがありました。その方は言っていました。「私の前でもなく、後ろでもなく、横に立ってください」。凄く心に残っている言葉です。
「普通」と書いてまともと読む公式トレーラーについて
作中では「まとも」という表現は出てこなかったんじゃないでしょうか。ですが、公式トレーラーでは「普通」という漢字を「まとも」と読んでいました。ネットで「まとも」って意味を調べると、
まっすぐに向かい合うこと。正しく向かい合うこと。また、そのさま。真正面。
と記載されています。それに対して「普通」は、
特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。
と記載されています。作中で秋本が多用する「普通」は後者の意味合いを多く含みますが、大野や秋本の作中の恋愛行動は「まとも」じゃない。前者の意味合いを含んでいる気がしますね。
「まとも」と「普通」を同列で考えるのであれば、言葉の意味だけを捉えると、大野は作中、「普通」ではありませんでしたが、終始「まとも」であろうとしていたように思えました。反対に秋本は、「普通」であることにこだわっていましたが、「まとも」ではありませんでした。
下記の余韻用でも話しますが、大野のまともな意見が秋本の心を打ち、正しく向き合うことで大野に告白をする。という流れは綺麗でした。
考察
本作は、村田沙耶香の『コンビニ人間』にとても近い。芥川賞をとって、世界累計100万部は売れている、あの『コンビニ人間』とやっていることがとても近い。それはテーマ。「普通」これだけ「多様性」が叫ばれている昨今において、このテーマ。いや、それも含め全部「多様性」なのだろう。が、難しいのは「正常」と「異常」の線って、どこだろう?
生きづらいよ……「普通圧力」、つらい。
と、大野は思う。また、秋本もそうだ。普通が、意外としんどい。その考え、生き方がマジョリティなのだとは思う。だけど、そんなのクソくらえだ。じゃあ、「普通」の正体ってなんなのだろう。前述したが、また引用すると「特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。」待て! ……「ありふれたこと」!! これって、なんだ。別にね、多数派が全てじゃない。少数派でもいい。マイノリティ万歳! もちろん、その答えが「まとも」にあることはもう、皆さんもお分かりですよね。いやあ、とにかく「普通」って、難しい。あえて、フリガナはつけない。ただ、この映画で語りたかったことは、少数派の、こういう人間もいるよ、ということだと思った。それに別に、彼ら彼女らは、何も悪くない。むしろ、いい!
余韻用
最後の大野の叫びは心に響くものがありましたね。このシーン以外に大野が声を荒げるシーンはありません。心の叫びも自分のことではなく、「普通」にこだわる秋本に対しての優しい面が映し出されるいいシーンでした。大野の語る定量的な愛の告白だと私は感じました。すごく素敵!
下記に引用する、魂の叫びのようなシーンはグッときますよね。またこういうシーンで思い出すのは、映画『GO』の窪塚洋介最後の長台詞ですよね。観ましたか? あれ、めちゃくちゃ好きなんです。
普通なんてどうでもいい!
宮本は君と肉体関係を結んだんだろ! 君と肉体関係を結んだんだ! 君と寝たのに平気な顔して元の恋人のところに戻るのが普通? そんなの全然普通じゃない。君もなんでそんなに平気な顔してるの? もっと怒れよ! こんな男許してもいいのか。この写真を見て君はどう思ったんだよ。傷つかなかったのか? 僕は君を傷つけたこんな男は絶対に許せない。君が言っている普通は何かを諦めるための口実なのか? 普通はこうだから、普通はそうじゃないから。なんで自分で決めない? なんで自分で決めないんだよ! 普通なんでどうでもいい。そんなものに縛られる必要、全くないんだよ。
さて、「普通」とか「恋」の正体がよく分からないあなたにお薦めしましたが、どうですか? 少し、輪郭くらいは見えてきましたでしょうか?
皆さんはどう思いましたか?
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