基本情報
2014年、ヤバい本。純文学。(文庫版)読了目安は5時間(本作と他に『トーキョーの調教』収録)。作者は羽田圭介。
さて、まずは作者、羽田圭介を紹介させて下さい。彼はね、もはや一般芸能人だと思っています。小説家の中でも、顔面認知度はかなり高い方だと思います。

羽田圭介 X(旧ツイッター)プロフィール画像より引用
見たことありますよねww クイズ番組や、テレ朝のバスの旅などに出演されています(バス旅、正式名称は『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で長らく太川陽介、蛭子能収のコンビでしたが、シーズン1終了後、シーズン2のでは、俳優の田中要次とレギュラー出演でしたね。1年ほどで終了してしまいましたが、楽しかったですよ)。色々やっています。幅広ですね。求められているのかもしれませんが、本人にトライする精神があります。面白いですよね。なんていうのでしょう、映像で見ても感じましたが、とても正直な人に見えます。あのね、歯に衣着せぬ物言いは、爽快ですよね。ただそんな羽田ですが、安心して下さい、ただの色物じゃありません。ちゃんと芥川賞作家です。皆さんの記憶には、もう忘れ去られた頃かも知れませんが、又吉が『火花』で受賞した2015年。その、じゃない方が彼でした。彼の『スクラップ・アンド・ビルド』が同時受賞します。
どうですか? 覚えていますでしょうか。受賞後、それからしばらくはテレビで彼を見ると、自身を広告塔にして、彼のTシャツには受賞作の『スクラップ・アンド・ビルド』がプリントされていました。これ、皆さんは変な人だって笑ったかもしれません。でもね、私は違いました。衝撃でした。そうか、そういう戦い方があるのか……と(なかなね、出来そうで出来ないことだと思います。恥じらい、周りの目、変な人に思われるかもしれない。でも、それでいい! 小説が売れるなら、それでいい。「俺は、これで食っていくんだ」そんな声が聞こえてきそうな、強い意志を感じます)。そんなこともあって、私は、彼が、羽田圭介が好きです。そしてね、まさにこのブログの骨頂。たぶん、本作はあまり知られていない、これこそ彼の隠れた名作、『メタモルフォシス』を紹介します。芥川賞受賞前作品。ちなみに、またプチ情報、彼は高校生の時にデビューしました。早い、なんと2003年、デビュー作は『黒冷水』です。だから、というわけでもないですが、意外とかかった、とも言われるのかもしれませんね。純文学作家にとって、とにも芥川を獲らないことにはスタートしない感があると、勝手ながら思っています。あ、それと一応、今回紹介する『メタモルフォシス』は芥川賞候補作です。残念ながら受賞は叶いませんでしたが、翌年、念願の受賞を果たしました。
それで、いったいどんな本だって?
ド級の変態小説です。いいですか、ド変態ですよ。そして「名刺代わりにしたい小説」、と羽田圭介が語っていたのが、印象深いです。「俺は、こんな小説を書いています」と。
痺れます。覚悟ですよ。皆さん、できますか? こういうところ大好きです! カッコいい! こういうところもまさに純文学だと思いました。だって、誤解を招く。そういう趣味があるって、思われる。羽田は、それでもいい、と思っているし、それもそうだけど、こういうのが書けます! どや! どうだって、そう語っているようです。みんな避けて通る。ビビっている。でも、彼は違う。羽田は、正直ものだし、覚悟がある。他人の目? そんなのは気にしない。ただ、面白いと思うのを書いた、それだけ。シンプル。意外とこういう作品って、ないよね。書いた後のことは、想像できる。でも、だからそれがなんだ。分かっているって。それでもそれをするというカッコいい作家はね。なかなかいない。

メタモル(Metamorphose)とは、「変身」や「転生」を意味するよ。

メタモンってこっから来てるんか!
あらすじ
その男には2つの顔があった。昼は高齢者に金融商品を売りつける高給取りの証券マン。一転して夜はSMクラブの女王様に跪き、快楽を貪る奴隷。よりハードなプレイを求め、死ぬほどの苦しみを味わった彼が見出したものとは――芥川賞選考委員の賛否が飛び交った表題作のほか、講師と生徒、奴隷と女王様、公私で立場が逆転する男と女の奇妙な交錯を描いた「トーキョーの調教」収録。
羽田圭介『メタモルフォシス』新潮文庫 背表紙より
これは、いい。パンチがある。くすぐるね。なになにSMだって!? そうです! しかも、あなたが思っている、想像している以上に、ディープです。常人では理解できない領域にも、この男は、近づこうとします。よりハードなプレイですね、ここでは書きませんが、どんどん深い所に、引き返せないところに行く男に、きっとあなたもハマる。
面白いと思うところ
知らない世界を覗けます。この読書によって、知見を広げ、深めることができます。ねえ、だってそうでしょう。SMですから! この一冊でOK。だいぶ学べちゃう。と、冒頭からの掴みがね、とても上手。だからね、正直私はあまり心配していない。手に取ったら、もう引き返せない。なんたって面白いから。あなたも変態に触れる。で、SMの思考だけじゃなく、そうじゃない部分もよく書かれている。
こういう人にお勧め
「面白いから、騙されたと思って読んでみな」って、オススメしたいのですが、どうしたって人を選ぶww 先に覚悟の話をしたばかりですが、「へえ、こんな変態小説を人にオススメするんだー」とは、なります。でも、次の言葉は簡単です。「ま、面白かったけどね」間違いない。なんたって、モノホンの変態です。やっぱりね、「本物」って、面白い。
当然、SMに興味がある方にはオススメです。「面白いと思うところ」と重複してしまいますが、本から学べます。知見を広げ、深めたい方は是非! こんな世界がある。ディープ。面白い。そしてね、それに導くこの教科書は、なかかなに刺激的で、本物が覗けます。
また小説として、固くない純文学。楽しい純文学。総じて、いい純文学だと私は思います。こんなことを書くと純文学の定義から語らなければいけなくなりそうですが、それはここでは止めておきます。

コメント