『星を継ぐもの』あらすじ付き紹介及びネタバレ、批評

小説

基本情報

初読の驚き、再読の発見

 SFを読み始めた頃に出会って、強烈な体験として記憶に残っている一冊があります。
 J・P・ホーガンの『星を継ぐもの』です。
 初読時の感動は、今でもはっきり覚えています。月で発見された「5万年前の人類の死体」という導入だけで、世界が一変するような感覚がありました。ページをめくるたびに仮説が更新され、知性そのものを刺激される読書体験でした。そして今回、久しぶりに再読しました。正直に言えば、あの時ほどの驚きはありません。展開は分かっているし、粗も見えます。それでも読み終えたあと、やはり思いました。この作品は、もっと読まれるべきだと。

 初読では「すごい!」としか言えなかった理由を、再読では言葉にできるようになりました。本記事では、その両方――初読の衝撃と、再読で見えてきた価値と欠点――を整理しながら、『星を継ぐもの』という作品を改めて紹介していきます。

 作者はJ・P・ホーガン。刊行は1977年。ジャンルはSF/ミステリー。丁度私の手元にある『星を継ぐもの』ですが、帯付き。私の初読は2019年でしたが、なんとその時に購入したものは100刷だという、めでたい。目出度い、愛でる。日訳初版は1980年5月23日で、2018年12月7日に100版とのことです(ということは、今はいったい何刷まで記録を伸ばしているでしょうね)。参考読了時間初読は9時間(再読時には7時間半)。

HARU
HARU

永遠のロングセラーって重複言葉っぽいよな。永遠にロングしちゃう!

PENくん
PENくん

終わりがないのが終わり。ゴールド・E・レクイエム!

簡単なあらすじ

月面で発見された深紅の宇宙服をまとった死体。だが綿密な調査の結果、驚くべき事実が判明する。死体はどの月面基地の所属でもなければ、ましてやこの世界の住人でもなかった。彼は五万年前に死亡していたのだ! 一方、木星の衛星ガニメデで、地球の物ではない宇宙船の残骸が発見される。関連は? J・P・ホーガンがこの一作をもって現代ハードSFの巨星となった傑作長編!

J・P・ホーガン『星を継ぐもの』創元SF文庫 裏表紙より

面白いところ

 まず、コレ。解説からの引用です。基本情報でも書きましたが、再読だから、なのかもしれませんし、またこれまでに多くの小説に触れてきたからこそ、なのかもしれません。

 今ならこの言葉の意味がよくわかる。たしかにそうなんだよ。スルー出来なかったので、載せさせてもらう。

小説として、SFとして、おそらくは数多くの欠点を持っているこの作品には、そのすべてを帳消しにする魅力がある。読んでいる内に、胸がワクワクしてくるのだ。サイエンス・フィクションなのだ、これは。

J・P・ホーガン『星を継ぐもの』創元SF文庫 裏表紙より

 ということで本題、下記に4つ。3つはポジティブ、1つはネガティブ意見・苦言。

SFでありながら、徹底した“推理小説”

『星を継ぐもの』の最大の魅力は、SFでありながら構造が完全に本格ミステリーである点です。

  証拠の提示
  仮説の構築
  反証による否定
  より合理的な新仮説への更新

 このプロセスが、研究会の議論という形で積み重ねられていきます。宇宙船も戦闘もほとんど出てこないのに、知的興奮だけで読ませ切る力は、今なお一級品です。

「科学は合議で進む」という描写

 本作は天才がひとりで真相に辿り着く物語ではありません。複数の研究者が、それぞれの専門知識を持ち寄り、間違い、修正し、合意に至る。この科学のプロセスそのものを物語化した点は、本作の大きな美点です。

スケールの拡張の気持ちよさ

 謎は、
 月 → 地球 → 太陽系 → 人類史

 と、段階的に拡張していきます。この「風呂敷の広げ方」は再読でもなお鮮やかで、SF的快感は失われていません。

苦言、気になる欠点

  登場人物のキャラクター性が弱く、記号的に感じられる
  会話が説明に寄りすぎる場面がある
  現代SFに慣れた読者には、科学描写がやや古く感じられる

 ただし、これらは本作が「アイデアと論理」を最優先した結果とも言えます。物語の核を損なう致命的欠点ではありません。

こういう人にオススメ

  SF初心者で、「何が面白いのか分からない」と感じている人
  謎解き・ロジック重視の物語が好きな人
  派手なアクションより、知的興奮を求める人
  古典SFを一冊読んでみたい人

 逆にね、ネガティブな意見になりますが、感情的なドラマや濃厚な人物描写を求める人には、やや合わないかもしれませんね(とは言っても、読んでみて! 初読時の衝撃は、「やばい」よ←結局、言語化できていないというww)。


読んだ人向け(ネタバレ(絶っっっっっ対に読んでからだよ)等々)

結局、どういう話だったのか

 ここからは核心に触れます。月で発見された死体「チャーリー」は、人類とほぼ同じ身体構造を持ちながら、5万年前に死亡していました。この事実から導かれるのは、

  人類が月で進化した
  あるいは、人類と同型の別種族が存在した

 という、どちらかしかありえない仮説です。物語の後半で明らかになるのは、人類の祖先は地球ではなく、惑星ミネルヴァに存在した文明だったという真相です。ミネルヴァは巨大惑星の重力変動により破壊され、

  一部は地球へ
  一部は月へ

 移住せざるを得なかった。地球に移った集団が環境に適応する過程で知性を失い、再び進化し直した存在――それが、現在の人類だったのです。
 つまり本作は、「人類は文明を一度失い、やり直している」という物語でした。この結論に至るまでの論理の積み上げこそが、『星を継ぐもの』の本体です。

この作品の功績

  1. ミステリSFの完成度を一段引き上げた
  2. 「科学的推論そのものを娯楽にする」ことを成功させた
  3. 後続のSF作品に、知的議論型プロットの可能性を示した

 現在では定番となったスタイルですが、当時としては非常に先鋭的でした。
 この『星を継ぐもの』の偉大な功績として、本作に多大な影響を受け、後世の後輩は、この作品を、この偉大な先輩方の意思を受け継いでいます。日々SFは、進化しています。このブログでは、他にも至高のSF小説の記事を書いています。そちらもよかったら読んでみて下さい。

まとめ(その1)

 再読すると、欠点は確かに見えます。それでもなお、『星を継ぐもの』はSFの入口として、また知的娯楽の到達点として、強くオススメできる作品です。初読の人には「驚き」を、再読の人には「構造の美しさ」を、ということで〆させて頂きます。

批評。『星を継ぐもの』には考察がない、等々

 結論から言うと、この小説に「考察」はほとんど要らないです。ただしこれは欠点などではありません。

そもそも論、 「ネタバレ」と「考察」は別物、その違いは?

 ネタバレとは
   物語の事実関係を明らかにすること
   「結局、何が起きていたのか」を説明する行為
   読者の理解を作品と同じ地点まで連れていく

 『星を継ぐもの』のネタバレは、作品そのものがすでにやっていることです。
 この小説は、
   謎を提示し
   仮説を検討し
   反証し
   最終解答を出す

 という「説明完了型」の物語です。だから「結局どういう話だったのか」を整理する価値はある。

 一方、考察とは
   作品が語らなかった部分に意味を与えること
   あるいは、語られた結論を別の角度から読むこと
   読者が作品から一歩外に出る行為
 ここで重要なのは、『星を継ぐもの』は、読者を外に出させないという点です。

なぜ『星を継ぐもの』には考察が生まれにくいのか

 その理由は明確です。

1.テーマが、「解かれること」そのものだからです。
  この作品の主題は、
    人類とは何か
    文明とは何か
  ではなく、人類史という謎を、どう解くかということだからです。
  要するに、テーマが「推論プロセス」なので、結論後に余白がほとんど残らない。

2.作者が“正解”をはっきり書いてしまう
 ホーガンは優しすぎる作家です。
   曖昧さを残さない
   比喩に逃げない
   読者に委ねない
 その結果、「別の読み」は入り込む隙がない

3.SF的アイデアが寓話化されていない
 例えば、
   『2001年宇宙の旅』
   『ソラリス』
   フィリップ・K・ディック作品

 これらは、答えよりも問いが残るSFです。
 一方『星を継ぐもの』は、問いを立て、答えを出すSFのため、考察より、納得が目的。

それでも「考察」をするとしたら何があり得るか

考察①
 この物語は「人類賛歌」ではなく「人類再履修物語」である。
 文明を失っても、
   再び火を起こし
   再び科学を築き
   再び宇宙を見上げる
 これは進歩史観というより、「人類は同じ授業を何度でも受け直す存在だ」という、かなり冷静な視線です。

考察②
 科学は万能だが、救済ではない。
 真実は解明されます。
 でも、それによって誰かが救われるわけではありません。
   チャーリーは蘇らない
   失われた文明は戻らない
   人類は少し賢くなるだけ
 ここに、ホーガンの限界と誠実さがあります。

考察③
 この小説は「物語」より「モデル」だ。
 登場人物が薄いのは欠点ですが、逆に言えば、この作品は、思考実験の模型(モデル)として完璧です。感情移入する小説ではなく、「知性の動きを観察する装置」なんですね。

まとめ(その2)

 どうでしたか、ネタバレと考察の違いも書きましたが、まとめとして、この小説は、読後に語ることより、読んでいる最中に考えさせるためのSFなのです。

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