『カランコエの花』紹介および考察

映画

基本情報

基本情報

 2018年の日本映画、LGBTについて考える映画です。監督は中川駿。主演は今田美桜。
 上映時間はなんと39分! 主演の今田美桜はド有名ですが、ほかのキャストは誰一人として有名じゃないです。監督の中川駿でさえ、ウィキペディアもありません。まさに隠れた名作!
※名作の点はまだ説明していませんが、これからします。
 テーマは、「LGBTについて考える」です。今でさえ、ですが、2018年はもっとセンシティブだった主題だったと考えられます。腫れ物に触ること、タブーですが、そもそもその考え自体が差別的だったと中川駿監督は考えました。結果は見事。世間一般で認知されている大きな賞ではありませんが、『カランコエの花』は、第26回レインボー・リール東京「レインボー・リール・コンペティション2017」グランプリ、第51回TOKYO月イチ映画祭 グランプリ、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー エンターテインメント映像部門グランプリ、第9回下北沢映画祭コンペティション 観客賞・日本映画専門チャンネル賞、第4回新人監督映画祭コンペティション部門 中編作品部門グランプリ、横浜インディペンデントフィルムフェスティバル 中編最優秀作品賞、2018年5月に第16回中之島映画祭でグランプリ。
 と、歴々とした実績がある、すばらしい作品となっています!

簡単なあらすじ

「うちのクラスにもいるんじゃないか?」
とある高校2年生のクラス。ある日唐突に『LGBTについて』の授業が行われた。しかし他のクラスではその授業は行われておらず、生徒たちに疑念が生じる。「うちのクラスにLGBTの人がいるんじゃないか?」生徒らの日常に波紋が広がっていき……
 思春期ならではの心の葛藤が 起こした行動とは…?

(『カランコエの花』公式サイト抜粋)

 今回、この記事作成にあたり公式サイトを拝見しました。このサイトを見て頂ければ分かりますが、いわゆる普通のサイトじゃなかったです。テーマがテーマなだけあって、研修資料のような建付けとなっています。

面白いと思うところ

 面白かったし、いい映画でした。と、いい映画と書きましたが、この映画は「観たほうが」いい映画としての意味合いも多く含みます。
 テーマがテーマなのだからそうだろうと予想される方も多いでしょう。もちろんそれもありますが、それと同時に、純粋にいい映画でもあったので驚いています。
 研修ビデオ感(もちろんそんな側面)もありますが、LGBTに対する考え方は人それぞれで、どれが正解ってわけでもなく、では自分はその場面に直面した時、どう接するんですか? そんな問いかけを私は感じました。
 雑なプレゼンですが、こういう映画こそ掘り出し物って思います。「面白い」という話とは少しズレますが、今田美桜がとてもいいです。彼女は、巧いですね。彼女の他の作品でも薄々気がついていましたが、時系列が順序しますが、この作品でも実感できます。
 気づきがあります。けっこう、エグイです。描写の話ではなく、心に刺さります。刃先は鋭いです。なかなかのメスを入れたと思いましたね。

こういう人にお勧め

 LGBT、今さら聞けないよ! って方。または知ったつもりの方。はたまたよくご存じの方も!
 皆さん是非、観て下さい! 前述しましたが、この映画は、観た方がいい映画だからです。

 この映画は正しく、というのは一側面かもしれませんが、でもある意味まっすぐに描いています。「やられたー」とか、そんな感情をあて、私は、ハッとしました。そしてきっと皆さんもハッとさせられます。なかなかエグイですよ。

 教職者! 管理職!
 これは、必修科目だと思います。
 結局のところ、理解なのです。……なんか、理解なんて言うと、それも差別な気がしてきました。なんてことのないことなのです。何も、悪くない、どこも、気持ち悪くないことなのです。これ以上は書きません。なんたって、たったの39分です。たったの39分であなたはLGBTについて、どんな道徳の授業よりも深く、深く考えることができます。

ここから読んだ人向けの話

考察

 皆さんは、あの仕掛けに気がつきましたかね?
 4ではじまって、8でおわる。憎いのは最後に1を描くことですよね。そう、たった1週間のことなのです。さくらのカムアウトから、たった1週間で、地獄。これはもう皮肉とか、そういう次元じゃなくてって、パンデミックだと思いましたね。観ていて、それが分かって、恐ろしかったです。そしてあのエンドロールです。シビレましたよね。
 さて、それでは犯人捜しでもしてみましょうか?
 私は、犯人を知っていますよ。それは、大人です。教員です。共犯は、子供。無垢なところです。ここで高校生を無垢というのもどうかと思いますが、あの彼は、いい味出していましたよね。最後の、罰がまた、痛快です。まさに罪と罰。
 が、何より大人です。教員です。考えなし過ぎやしないだろうか。演出としての鼻くいもまた、監督の厭らしさが感じられます。巧いとは思いましたが、このアプローチの仕方は、あの演出は、あまりに間抜けに映りましたね。
 また田舎の生活、女子高生の会話、ガキな男子。必要最低限の情報は一通り、穏やかに描かれていました。リアルだったとも思います。シンプルで、慎ましかったとも思いました。ただ、バスの揺れは気に入りません。画面に酔いそうでした。
 今田美桜しか知っている俳優がいませんでしたが、彼女を筆頭に、皆さん、とても上手でした。今は無名でも、これから活躍されるかもしれませんね。特に、さくら役を演じた彼女、また前髪を上げた、一番パリピそうな彼女、楽しみですね。
 と、ここからは追記なのですが、そういえば上でもあげた、あの彼、いい味出しているよねって書きましたが、彼の名前は「笠松将」。最近よく聞きます。通り名があって、第三の綾野剛とも言われています。ちなみにみなさんは第二の綾野剛を御存じですか? その彼も、よく似ていますよww

終わり方について

 リテラシーが求められますよね。アンハッピーな終わり方です。これは警鐘とか、そういうメッセージに近いです。誰もこんな顛末を辿るとは到底思わなかったはずです。あんなハレーションを引き起こしたこと、あんな、まるでパンデミックになるとは、当人には想像もつかなかった。本当、憎いですよね。音声だけで、あのさくらの嬉々とした告白を。それを受けた先生は、ちゃんと聞いていました。いったいどう捩じれたらあんな末路を辿るのだろうか……。先にも触れましたが、たった一週間の出来事です。本作では、およそ多くの人が自分に重ねる人物を見つけることができたのではないでしょうか。さて、このあとはいったいどうなるのでしょうか。さくらは、きっと塞ぎ込みます。そして、今田美桜もそうです。周囲みんな、もれなく不幸です。なぜでしょうか? 多様性とはいったいなんでしょう?
 あの演出、この構成はエグイです。
 でも、そういうものなのです。だって本作は、映画という側面より研修ビデオということに傾倒しています。だから、あの終わり方なのです。悪い事例です。それを証明したのです。見せつけたのです。だから映画としての成功云々の話ではまったくないのです。

 しかし魅せられた。私は、この作品でLGBTについて考えることができました。こう、私たちに思わせた。そのための、あの終わり方だった。警鐘を鳴らす。私は、そう考察します。

タイトルの意味について

 カランコエの花言葉は「あなたを守る」「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」「おおらかな心」です。さらに調べると、色ごとによっても違う解釈があるそうです。これはね、また監督にやられた気がします。この監督、とことん仕掛けてきます。分かりますか? 二項対立ですね。「あなたを守る」と「おおらかな心」。母が、娘に赤いカランコエ色のシュシュをあげますよね、この意味は「あなたを守る」です。では何からでしょう?
 と同時に「おおらかな心」とは、何かを許すようなことを示唆されます。これ、面白くないですか? 母は、守るのですよ。でも、娘は許す※のです。
※「おおらか」を私は「許す」と解釈しています。
 私は、この記事を書きながら、このカランコエの花言葉の4つを知った時に、まさにヤラレタと思いました。なんせ、劇中では「あなたを守る」ということしか説明されていないのです。でも、こんな意味もある。そんな二つの意味を含有した花言葉を発見した監督、恐れ入ります。とてもいいタイトルだと思いました。
 皆さんはどう思いましたか?

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