『動物農場』紹介及び考察

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基本情報

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 イギリスの作家、ジョージ・オーウェルの1945年の作品です。オーウェルと言えば、ディストピア小説の金字塔で、「ビック・ブラザーがあなたを見ている」というセリフが有名な監視社会を描いた不朽の名作『一九八四年』が代表作ですね。そしてもう一作、これこそ隠れた名作があります。そう、それが本日紹介する『動物農場』です!

 ですが、はじめに大切な注釈があります。『動物農場』は、ただのおとぎ話です。寓話で、風刺で、もちろん小説の態はとりますが、あくまで物語です(ということを強調しておきたい)。物語です。そして、簡単に読むこともできますが、考えさせられる作品となっています。この記事の最後部分、考察でも多く語りますが、間違った読み方をしないようにとは注意して頂きたいです。と言っても、読み方及び解釈について外野が言及するのは無粋なのですが、この点が小説で、どうとも読めることができてしまいます。

 この原因は故意か、忖度から生じたものだと思います。と言うのは、この作品は、あらゆる古典と同じく、著者の意図とは無関係に、いろいろな水準で読むことができるからです。これも、時代だったのです。この小説には、明確なモデルがあります。あの時代の、ある国を、明確にモデルにしていますが、それは、それです。私個人的には、そういう見方は推奨しません。ここで紹介するように、ひとつの、面白い作品として読んで頂きたいです。時代背景なんて、分からなくていいです。私はただ、あなたにも感じて頂きたいです、この作品の声を。読了目安時間は3時間半です。




簡単なあらすじ

飲んだくれの農場主ジョーンズを追い出した動物たちは、すべての動物は平等という理想を実現した「動物農場」を設立した。守るべき戒律を定め、動物主義の実践に励んだ。農場は共和国となり、知力に優れたブタが大統領に選ばれたが、指導者であるブタは手に入れた特権を徐々に拡大していき……。権力構造に対する痛烈な批判を寓話形式で描いた風刺文学の名作。『一九八四年』と並ぶ、オーウェルもう一つの代表作、新訳版

ジョージ・オーウェル『動物農場』新訳版 ハヤカワepi文庫 背表紙より

 そう、読んだことない人には驚きですよね。ブタですってさ。でもね、大マジなんですよ。内容はさておき、人間のいないところでおもちゃたちが話し出すという『トイストーリー』をイメージして頂いてもいいと思います。ここで、動物達の世界が覗けます。何が大統領ですって感じでしょうが、でもね、笑っちゃいけませんよ。読めば分かります。ほんとに、ほんとうに大マジですから! たぶん、あなたも笑えない。だって、私がそうでした。

 と、登場動物の簡単な説明をしておきます。これがあると便利、登場人物迷子にならなくてすみます。参考にして下さい。

面白いと思うところ

 それはもちろん導入部、老メイジャーの長広舌、演説ですね! 痺れますよ。ハッとさせられます。※少し長く引用しますが、一読する価値があります(本当はもう少し長いのですが、これでも抜粋しました)。

「(中略)さて同志諸君、我々のこの生活の性質とは何だろうか? 目をそらしてはいけない。我々の生活は惨めで、苦労に満ち、短い。生まれたら、ギリギリ死なない程度の食べ物だけを与えられ、能力のある者は力の最後の一滴に至るまで働かされるのだ。そして有用性がなくなったとたんに、ひどく残虐な形で殺処分されてしまう。イギリスのどんな動物も、一歳になってからは幸せや娯楽の意味を知らない。イギリスのどんな動物も自由ではない。動物の生活は悲惨と隷属だ。これがありのままの真実だ。

 でもこれは、自然の秩序の一部にすぎないのだろうか? 我々の土地があまりに痩せていて、そこに暮らす者たちにまともな生活を提供できないせいなのだろうか? いいや、同志諸君、そうではないと千回でも繰り返そう! イギリスの土壌は肥沃であり、気候は穏やかで、いまそこに暮らす数をすさまじく上回る動物たちに、たっぷり食べ物を提供できるのだ。我々のこの農場一つですら、ウマ十二頭、ウシ二十頭、ヒツジ何百頭もを養える――その全員が、いまの我々ではほとんど想像すらできないほどの快適さと尊厳をもって暮らせる。ではどうして我々は、この惨めな状態を続けているのだろうか? それは我々の労働の産物はほぼすべてが、人間によって奪われているからだ。同志諸君、ここにこそ我々の問題すべての答えがあるのだ。それはたった一語にまとめられる――人だ。人こそは、我々が持つ唯一の真の敵だ。人を舞台から取り除けば、飢餓や過重労働の根幹原因は永遠に取り除かれる。

 人は唯一、生産せずに消費する生き物だ。乳も出せず、卵も産まず、鋤を引くには弱すぎ、ウサギを捕らえるには足が遅すぎる。それなのに、人はあらゆる動物の主だ。動物たちを働かせ、飢え死にしない程度の最低限だけを動物たちに返し、残りは自分の懐に入れる。土を耕すのは我々の労働だし、肥沃にするのは我々の糞だ。(中略)

 そして我々が送る惨めな暮らしでさえ、天寿を全うさせてはもらえないのだ。この私自身は文句を言える立場ではない。私は運がよかった。十二歳で、四百匹以上の子供を授かっている。ブタの自然な生き方とはそういうものだ。でも最後に残虐なナイフを逃れられる動物はいない。目の前にすわっている若きブタ諸君、きみたちは一匹残らず、一年以内に肉切り台の上で悲鳴をあげつつ命を失うのだ。我々はみんな、その恐怖に直面しなければならない――(中略)

 つまり我々のこの生活の邪悪すべては、人類の圧政から生まれているというのは火を見るより明らかではないだろうか? 人さえ始末すれば、我々の労働の産物は我々自身のものとなる。ほぼ一夜にして我々は豊かで自由になれる。すると我々はどうすべきだろうか? それはもちろん、日夜心身を傾けて人類の転覆を謀るのだ!

(中略)人はすべて敵だ。動物はすべて同志だ」

ジョージ・オーウェル『動物農場』新訳版 ハヤカワepi文庫p11~15

 どうでしょうか?なかなかな力説です。

「人間によって奪われている」

 この発言、たしかに、自明で真理だとも思いませんか?

 とにかくまずこの導入ですよ。私は惹かれましたね。小説を読んでいるというより、どこかの国の、それは虐げられた国の、大統領のスピーチのようだと感じましたね。そして何がよかったって、これには続きがあるのです。それがまるで悟りのようで、ここまで言うから大衆を惹きつけるのだと思いましたね。こう続きます。

(中略)そして忘れてはいけないことだが、人と戦う中で人に似るようになってはいけない。人を制圧してからも、人の悪徳を採用してはならない。どんな動物も決して家に住んだり、ベッドで寝たり、服を着たり、酒を飲んだり、タバコを吸ったり、お金に触ったり、取引をしたりしてはならない。人の慣習はすべて邪悪だ。そして何よりも、いかなる動物も仲間たちに対して決して圧政を敷いてはならない。弱いのも強いのも、賢いのも単細胞なのも、動物はすべてに兄弟だ。どんな動物であれ、他の動物は一切殺してはならない。あらゆる動物は平等だ。

ジョージ・オーウェル『動物農場』新訳版 ハヤカワepi文庫p16

 結果、こんな規律が生まれます。七戒です。

 憲法のようなものですね。気がつけばあらすじの延長のようなことを書いていますが、骨格です。そしてここまではOKなのです。そしてここから動物農場がどのように変化していくのかそのプロセスが最高に面白いのです。

 入りは最高でした。そしてここからもずっと面白い。キャラがたっています、ただのSFでは括れません。メッセージ強めです(と、感じなくてもいいのですが、その点が冒頭で簡単に読めると書いたことでもありますが、『本当は怖いグリム童話』みたいな感があります)。私はね、この『動物農場』とはなかなかのクセものだと思っています。ただ、面白いだけでは済まされない、という側面があると思っているからです。

HARU
HARU

家畜は英語で、Live stock

Live =生きる

Stock =在庫

家畜って日本語もひどいけど、英語もなかなかひどい!

PENくん
PENくん

ペンギンは漢字で書くと人鳥。二足歩行ですから。

こういう人にお勧め

 前述しましたが、『動物農場』はおとぎ話で、風刺小説ですが、大ジャンルはSF。そしてディストピアです。洗脳、いつの間にか感覚麻痺、気がつけば改ざん。怖い話なのですが、こういうの大好物な人、いますよねww モデルがあるといったように、動物たちを人間に置き換えることは簡単ですし、極論、わざわざブタじゃなくてもよかった。これは、悪意だ。言えば、動物じゃなくてもいい。虫でも、『トイストーリー』同様、おもちゃでもいいのです。私が何を言いたいかといいまと、この小説の本質は、私たちが分かっていながらも、あまり認めたくない真実を描いています。人間って、なかなかヤバい。ねえ、みんな本当はどう思っている? みたいなこと問われているような気がします。

 きっと何度も読み返す本になると思います。たった3時間半、読めば、背筋が伸びるような感じです。ある教養本としてお勧めします。また、この小説をきっかけに、歴史を学ぶのもいいと思います。何が驚くって、この本、70年くらい前のですよ、でも、ご承知のとおり、世界はほとんど変わっていませんよ。

ここから読んだ人向けの話

一体誰が風車を壊した? もしかしてナポレオン?

 私はナポレオンだろうと思ったのですが、にしては演技派ですよね? でも、指導者って、そうだよなーとか思いますし、このことで設計上の気に入らなかったところも改善できるし、なにより火種になった。このことでライバルのスノーボールを潰せる。とか、このあたりからナポレオンがどんどん勢力を伸ばすし、もちろん隣のスクウィーラーの活躍ぶりも追い風ですが、とにかくここが分水嶺だと思いました。なら、犯人はナポレオンかと考察しますね。この時からナポレオンは名実ともに英雄になりました。もちろん、単に壁が薄すぎた、なんていう話はありますけど。いやいや、それじゃあつまらないですよね。

七戒の書き換えが意図すること

 これは、導入部、老メイジャーの長広舌、演説の、まさにアンサーソングになっていますよね。皮肉ですけどww 水は、低い方に流れる。きっと、この物語に続きがあれば、奴らはまだまだ書き換えます。たぶん最後は原型など留めないでしょう。初心の崇高な理念も、結局のところ無駄だと著者は言いたかった。これは、「権力」というお化けには、誰も勝てないということを揶揄したことだったのです。しまいにはコレ。

 すべての動物は平等である。       
 だが一部の動物は他よりもっと平等である。

 この日本語、ヤバくないですか?? もっと平等って、これはハイセンスだと思いますね。おかしな日本語ですが、これは、よく伝わる。どうかしているところが、最高ですよね。

「動物」農場を→「メイナー」農場と改めた理由、その意図は?

 人間に寄り添った? それか、媚び。あるいは全部これもスクウィーラーが言う、戦術なのでしょう。このブタは、まだまだ終わらない。やがては人間を超えようとさえしていると、ハッキリと思いました。あくまで布石、まだ途中。外交ですかね、顔は笑っていますが、きっと目は笑っていない。腹の中は真っ黒。私はそう思いました。ちょっと考えすぎかもしれませんが、でも考えてみて下さい。あるあるですよね。こういうシーン。リアルですよね。それを、著者は描きたかった。私はそう思いました。最後にお互いが♠のAを主張するシーンがありますが、♠のAはトランプで言う最強のカードを意味しますしね。

最後の解釈について

 あのラストに、間違った解釈をしてはいけません。みなさん、もしかして、仲良くやると思いましたか? 最後は人間とブタ、どっちがどっちかを見分けるのは不可能なのでした、と締めくくられますが、たしかに同じようになったのかもしれません。しかしそれは、どちらも黒。ブタの方が、人間に染まったのではなく、逆。人間の方が、ブタ側に染まった、屈した。に、近いでしょう。勝者は、ブタ側です。モデルがあると、散々言いましたが、結局ね、負け戦のことを書いたのです、ああ人間側が負けちゃったよと、言いたかった。実に嫌な終わり方です。

 と、この話の教訓はね、問われているのは大衆なのだ、とも言いたいのだと思います。それはそうでしょう。読んでいて思いましたよね? なぜ納得しちゃうの? こんなの洗脳じゃん! 騙される方がバカじゃん! ってね。著者はあえて、分かりやすく書いているだけですよ。

 皆さんはどう思いましたか?

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