基本情報
2026年度上期、第175回芥川賞候補作に村司侑のデビュー作、『ソリティアおじさんがいた頃』がノミネートされた。これ知っている。この前文學界新人賞とったやつだ。読んだぞ。読んだ感想は、悪くなかった(生意気なっ、と思うかもしれないが、正直な感想だ。新人賞でぶっ飛んでヤバいのなんてなかなかない……と思ったが、近年では『ハンチバック』がそうだった。あっ、同じ文學界だ。そしてそのまま芥川賞とったな……あれはヤバかった──)。悪くはなかったけど……なんでもない小説な気がするんだけど、ハッとすることがあった。内容も、これといった何かイベントが起きるものでもなかったような……でも、繰り返すが、悪くなかったな。ということで読み返した。読了目安時間は2時間30分。
あと、『青天』以外にもあるよ! と僕はどこかで声を挙げたかった。例年、芥川賞・直木賞の候補作が発表されると、ニュースになる。今回、直木賞にはお笑い芸人「オードリー」の「若林さん」の『青天』がノミネートされました。されました、されました……ばっかり。他にもいるんだよ。加藤シゲアキの時もそうだった。社会学者? の古市の時も少し騒がれた……そう言えば最近は見ないね。そもそも、そういうことの走りは、『火花』なのかもしれない。分かるよ、こういう報道のされかた。たしかに若林すごいよね、すごい……だけど、僕は分かっていながら、他の候補作についての、擁護に近いことをしたかったのかもしれない。こっちは芥川賞で、あっちは直木賞だ、でも、知っていたよ。本屋で棚積みされて、よく売れているんだって、10万部重版の記事は読んだ。ずっと前の話。今、売り上げ部数いったいいくらなんだか……でもね、実際、面白かった。で、もう獲りそうじゃん。こういう時に、他の候補者として隣にいるのは辛いな。なんて考える──


そもそも昔はWindowsのPCにはソリティアが標準装備されていたの。

マインスイーパも入ってたけど、ルールわかると面白いゲームだった。
簡単なあらすじ
主人公は味噌の製造会社の店舗に勤める古井瀬。半ヒモの彼氏と同棲している。ある日出勤すると、数年前に定年退職したソリティアおじさんが亡くなったことを知らされ、なぜか流れで通夜に行くことになってしまう。
静かで、穏やかな小説だった。安定感が半端なく、新人賞の選考の時にはあまりないことだけれども、序盤からすっかり物語に身を委ねることができた。登場人物が多いがそれぞれにリアリティがあり、少し気が弱く流されやすそうな主人公も「いるいる」感がある。悲劇にも喜劇にも転ばない、気の抜けたユーモアと共に進んでいく、あまりにもバランスの取れた物語。
「同じ会社に勤めていた人が死んで、通夜に行って、風をひく話」と言えばそれだけなのに、ずっと静かに面白くて、読後感も良い。金原ひとみ、文學界2026.5文學界新人賞選評より
金原ひとみはいつもいいんだよな。ということで、彼女の選評がそのまま簡単なあらすじであり、かつ感想も秀逸なので、引用させてもらった。で、そうなんですよ。僕は読後に、いつものようにメモをとって、読了目安時間と簡単な感想を記録した。僕の感想は、何てことない、大したイベントもないんだけど、さらりと読めた。安定感あり。珍しいことに、楽しい身辺雑記系純文学、文体がいい、軽い。あと、ヒモ彼氏との会話ではハッとすることがあった。──こんな感じ。よく覚えていないが、近いのは吉田修一の『パークライフ』かも。たしかあれも、読後そんな気になったような気がする──
面白いと思うところ
軽い感じ、話し言葉、思考を淡々と、そしてそれは飾らない、生の……気持ち。関西弁で、言葉選びにもユーモアがあって、心地いい。知らんけど(この言葉、よく使っていたけど、東京ではあまり使わないし、使うと、ちょっと感じ悪いよねww)。固くない、文章はふんわり脱力。親近感がわく。勢いもある。全編を通して空行が一つもなし。なんたって、たった1日の話。と、ちょっとした後日談、それだけなんだから。あっという間に読めちゃう。きりがいいところで、なんて思っていたら、きれない・きれない……でも、さらり、ペロリといけちゃうところが、≒面白いの(面白かった)証明なのかもしれないと、読後に思う。
僧侶の話もいいし、喪主の挨拶はブラックユーモアが効いて、たまらん。で、なんと言ってもヒモ彼氏のことを考えてしまった主人公の心情。嗚呼、って思った(ここは読んだ人向けで書く)。
こういう人にお勧め
ピンポイントで言えば、30代前半の独身女性の方へ。彼氏がヒモなら、なおいい(僕は本気で強くオススメするけど、後から「なにオススメしとん、胸糞悪」って、怒らないでね)。
あとは、今が停滞期の方へ。「いまのままで、本当にいいのかなあ」って、考える事ありませんか? 僕は、たまにある。たまたまそれが、長く一緒にいる恋人とのことを、本作では考える場面がある。僕はけっこう、そこのシーンがよかった。で、実際にさ、結構いるはず、そういう方。
そして何と言っても読後をお約束します。これは、かなりすごい。さて、選評より引用。
「ソリティアおじさんがいた頃」は誰が読んでもおそらく素敵なものを読後に持ち帰れる。
町屋良平、文學界2026.5文學界新人賞選評より
読んだ人向け
批評(感想)
結婚式と、死んだ時は、主人公になれるんだな。と、皮肉っぽく言ってみる。
仕事しないで、いつもカチカチとソリティアばかり。ずっと前に辞めた。思い出されるのはそれだけ。だけど昨日、死んだって。しかも火事でだって言う。しんどいやん。あれ、おかしいな、どうしてだろう、ムカついていたはずなのに、私だけじゃない、みんなそうだった。アイキャッチのとおりじゃん。でもあの人、実は結構やり手だったとか、優しかっただとか、そんな話をする……ふう、
死ぬのも悪くないのかもしれない。いやいや、ちゃうて! これって、ヤンキーが偶にいいことして、外見はああだけど「実はいい子なんだよー」現象に近い。違う? 知らんけど。
冗談はさておき、僕はこの小説で、次に引用するところが一番好きだね。
別れようか別れないでおこうかなんて、考えはじめた時点で負けが決まっていたような気がする。そんなの、となりの芝じゃないけど、違うルートに惹かれるに決まっている。たぶん。でも、ひとつ言えるのは、琴美さんの言う理由じゃない。あのひとの言うとおりなんかじゃない。といって、打算、お金、将来、それはたしかにあるけど全部でもない。~~(中略)じゃあなんだろうと考えていたけど、すごく簡単なことだった。だって、かっこようないんもん、いまのあいつ。気づいてしまえば簡単なことだった。そういうことやってんな、てっ、胸がすっとする。~~
村司侑『ソリティアおじさんがいた頃』より
この文章は好きだな。【面白いと思うところ】でも書いたが、惹かれる。軽いんだけど、ちゃんと芯か骨か軸のようなものがある。あと、彼氏さんは救われなかったね。社会に戻れるかな、将棋ばっかりして……とか、古井瀬のことも分かるけど、僕は彼氏の方を、考えてしまった。「人生の歯車が狂う瞬間」これは言い過ぎ? でも、とたんに上手くいかなくなった。いったいどうすればいいのか分からない。そんな状態の彼氏を捨てる!?……待て、この書き方だったら、古井瀬が悪いみたいだ。それは違う。ただ、琴美に言われた分けじゃないが、それはトリガーだったのだろう(ポジティブに考えれば、背中を押してくれた。ずっと向き合ってこなかった現実に……)。先のこと、考えちゃうよね。幸せな未来のこともそうだけど、今、別れたら……長く付き合っていた人と別れたら、もう恋人の作り方とか、分からない・思い出せない、というのは分かる。すごく分かる。そうなれば、私の方だって袋小路だ。でも、あいつかっこよくない。シンプルだった。別に、一緒に居れるよ。でも、ダメな気がする。するんだ……互いに。ムズイなあーと思うし、考えた。
いい小説だった。町屋さんの選評のとおり、それは僕も思う。別にね、めちゃくちゃ楽しいとか、そういうのじゃないんだけど、よかったんだ(なんて薄っぺらいんだ……ごめんww)。
皆さんは、どう思いましたか? ソリティアおじさん、芥川獲れるといいね! 次は若林先生の『青天』について書くよ! また読みに来て下さいな。それではまた!
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